インターネット投票のリスクとは?

インターネット投票のリスクとは?

世界中で選挙におけるサイバー攻撃が大きな脅威となっており、インターネット投票の導入を進める上で、そのリスクと対策が重要視されています。近年の事例を踏まえると、特に国家規模の選挙では、ハッキングや情報操作が民主主義に与える影響が深刻化しています。この記事では、サイバー攻撃による選挙への影響、電子システムの脆弱性、そして将来的な対策について解説します。

世界を脅かしているサイバー攻撃

世界を脅かしているサイバー攻撃

米国の選挙システムへの攻撃

2016年の米国大統領選挙では、ロシア政府が選挙関連システムにサイバー攻撃を仕掛けたとされ、21州の選挙システムがターゲットになったと米国当局が発表しました【1】。これらの攻撃の中には、選挙管理システムに侵入しようとした試みや、有権者登録データベースへの不正アクセスが含まれており、選挙結果そのものへの直接的な改ざんは確認されませんでしたが、選挙全体の信頼性が揺るがされました。

フランス大統領選挙での事例

2017年のフランス大統領選挙では、エマニュエル・マクロン陣営が「大規模なサイバー攻撃」に見舞われました。選挙直前に大量の内部メールや文書が流出し、選挙活動への影響が懸念されました【2】。攻撃は高度に組織化されており、選挙の公平性を損ねる目的があったとされています。

ドイツ連邦議会選挙での懸念

ドイツでも2017年、ロシアによるサイバー攻撃の懸念が広がり、連邦議会選挙でのハッキング対策が急務となりました。政府は、フェイクニュースの拡散や、選挙システムへの攻撃を想定し、セキュリティの強化を図りましたが、それでも脅威が完全に払拭されたわけではありません【3】。

選挙関連の電子システムに残る情報セキュリティの甘さ

DEF CONで明らかになったリスク

DEF CONで明らかになったリスク

2017年に行われたサイバーセキュリティのビッグイベント「DEF CON」では、米国の投票機器がいかに簡単にハッキングされるかが示されました。参加者たちは、約2時間で複数の投票機器に侵入し、投票結果の改ざんや機器の操作が可能であることを証明しました【4】。この結果、選挙関連システムのセキュリティが非常に脆弱であることが明らかになり、セキュリティ専門家や政府関係者に大きな衝撃を与えました。

インターネット投票が抱える構造的リスク

インターネット投票には利便性や効率性が期待される一方で、以下のような構造的リスクが指摘されています:

  1. サイバー攻撃の脅威
    攻撃者が遠隔地からシステム全体に影響を及ぼす可能性があり、物理的な投票システムよりも脆弱です。インターネット経由で送信される投票データの改ざんを完全に防ぐことが難しく、攻撃者にとって魅力的なターゲットとなります。
  2. 通信障害通信障害や、機器類の障害により、インターネットを経由した投票ができなくなる恐れがあります。
  3. 匿名性の確保
    投票の秘密を守るためには、投票者に関する情報と投票内容を分離する必要がありますが、このプロセスを安全に行う技術的課題が残ります。

国内外で将来を見据えた対策

セキュリティ強化の方向性

インターネット投票を安全に実施するために、以下のような対策が検討されています:

  1. 暗号化技術の向上
    データの送受信や保存を高度に暗号化することで、第三者による不正なアクセスを防ぎます。
  2. ブロックチェーン技術の導入
    投票記録を分散型台帳で管理することで、データの改ざんを防ぎ、透明性を高めることができます。
  3. 多要素認証の採用
    なりすましを防止するため、投票者の本人確認には、e-IDカードや生体認証を含む複数の認証方法を組み合わせる必要があります。
  4. 独立した監査機関の設置
    選挙システムの安全性を継続的に監査する独立機関を設け、不正がないことを保証する取り組みが求められます。

有権者教育の重要性

インターネット投票が安全に利用されるためには、国民の理解と協力が不可欠です。セキュリティの基礎知識を普及させ、不審な動作を報告する仕組みを整えることで、システム全体の信頼性を向上させることができます。

現実的な段階的導入

完全なインターネット投票の実現には時間がかかるため、まずは海外居住者や障害者を対象とした限定的な導入から始め、技術と運用の課題を解決しながら徐々に拡大することも一つの方策と考えられます。

まとめ

インターネット投票のリスクとは?

インターネット投票は、選挙の利便性や効率性を飛躍的に向上させる可能性を秘めていますが、同時に深刻なサイバー攻撃のリスクを抱えています。過去の事例からもわかるように、ハッキングや情報操作が民主主義の根幹を揺るがす危険性は現実のものです。

国際的な協力と技術開発を進め、セキュリティの強化と有権者の信頼確保に取り組むことが、インターネット投票を安全かつ効果的に導入する鍵となるでしょう。そのためには、暗号化やブロックチェーン技術などの最先端技術を活用しつつ、段階的かつ慎重に制度を構築する必要があります。

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湯淺教授

湯淺 墾道 教授

青山学院大学法学部卒業。同大学院法学研究科修了。九州国際大学法学部教授、同副学長、情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科教授、同副学長等をへて、2021年4月より明治大学専門職大学院ガバナンス研究科教授。総務省情報通信政策研究所特別研究員、日本学生支援機構CIO補佐官、科学技術振興機構社会技術研究開発センタープログラム総括などを務める。

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